財布を選ぶとき、素材にこだわる人ほど一度は「マヤショルダー」という名前に行き着くことがあります。
革好きの間で長く支持されてきた革ですが、似た革が複数あること、以前は別の名称で流通していたことなどから、調べるほど情報が錯綜しているという声も少なくありません。
このブログでは、マヤショルダーとはどんな革なのか、似た革との違い、経年変化の特性、そして当工房で製作している財布まで、まとめてお伝えします。
- マットな質感と早い経年変化
- プエブロとの違いを解説
- ショルダーとベリーの差
- 当工房の財布もご紹介
マヤショルダー|前編
マヤショルダーとは?どんな革?
マヤショルダーは、イタリアの老舗タンナー「イル・ポンテ社」が作る、牛の肩部分を使った植物タンニンなめしの牛革です。
スクラッチ加工(吟すり加工)と呼ばれる表面処理が、この革の個性を決定づけています。革の銀面(表面)をわざとヤスリで荒らしたようにムラっぽく仕上げることで、マットでアンティークな独特の風合いが生まれます。また、表面が元から荒れているため、使っているうちについた細かい傷が目立ちにくいという実用的な面もあります。
使い込むうちに内部のオイルが表面ににじみ出て毛羽立ちが寝ていき、マットでザラついた質感からしっとりとしたスムース調へと変化していきます。エイジングのスピードが比較的早く、傷もなじみやすいため、使い始めからすぐに変化を楽しめる革です。
マヤショルダーとマヤベリーの違い
「マヤ」は使う部位によって名前が分かれています。肩の部分を鞣したのが「マヤ・ショルダー」、腹の部分を鞣したのが「マヤ・ベリー」です。一般的な革は半裁(ショルダーとベリーを分けない1枚の状態)で販売されることが多いですが、マヤの場合は最初からショルダーとベリーに分けて販売されています。
肩は繊維が詰まっていてコシがあり丈夫なのに対して、腹はよりやわらかくしなやかな質感になります。ただし腹部は繊維が荒く扱いづらい面もあるため、同じスクラッチ加工が施されていても、部位によって品質(革のランク)が変わります。作るものや用途に合わせて使い分けることが大切で、この点については後の見出しで詳しく解説します。
似た革との比較
イル・ポンテ社と同じく、イタリア植物タンニンなめし革協会に加盟する老舗タンナーが作る「プエブロ」や「マルゴー」も、同じスクラッチ加工が施された似た性格の革です。その中でも、マヤショルダーは比較的軽く仕上がるため、財布やバッグなど重さを気にしたいアイテムへの使用に向いています。カラーバリエーションも豊富で、財布・スマホケースといった小物からバッグまで、レザークラフトの素材として幅広く使われています。
イタリア植物タンニンなめし革協会とイル・ポンテ社
マヤショルダーを語る上で欠かせないのが、その背景にある「イタリア植物タンニンなめし革協会」という組織です。1994年にイタリアのトスカーナ地方で設立された非営利団体で、現在は約20社のタンナーが加盟しています。
この協会が何を守ろうとしているのかを理解するには、まず革の「なめし」について知っておく必要があります。なめしとは、動物の生皮を腐らない丈夫な革へと加工する工程のことです。大きく分けると、化学薬品(クロム)を使う「クロムなめし」と、木の樹皮などから抽出した天然成分(タンニン)を使う「植物タンニンなめし」の2種類があります。クロムなめしは安価で大量生産に向いている一方、植物タンニンなめしは時間と手間がかかる伝統的な製法で、経年変化の美しさが最大の持ち味です。
この協会は、トスカーナで長年受け継がれてきた植物タンニンなめしの技術と品質を守るために作られました。加盟には厳格なルールが設けられており、なめしの工程がすべてトスカーナ州内で行われていること、鉱物系(金属系)のなめし剤を使用しないことなどが条件となっています。
イル・ポンテ社について
その正式メンバーのひとつが、マヤショルダーを作るイル・ポンテ社です。1961年、フィレンツェのポンテ・ア・カッピアーノ(Ponte a Cappiano)という小さな町で創業し、スクアルチーニ(Squarcini)家による家族経営で代々技術を受け継いできた老舗タンナーです。植物タンニンなめしとバケッタ製法に特化しており、環境への配慮という観点でもLeather Working Group(LWG)のGold認証を2020年に取得しています。
プエブロレザーとの違い

プエブロレザー|sotより
マヤショルダーと似た性格を持つ革として、前の見出しでプエブロとマルゴーの名前を挙げました。ここではその関係をもう少し掘り下げておきます。
この3つの革には時系列があります。先駆けとなったのが、バダラッシィ・カルロ社のプエブロです。同社は1967年にフィレンツェで創業し、手間がかかりすぎるという理由で廃れかけていたバケッタ製法を現代に復活させたことで知られています。植物タンニンなめし革の表面をブラシで毛羽立たせたプエブロは、マットでザラついた独特の風合いと劇的なエイジングが革好きの間で高く評価されました。
そのプエブロの人気と影響を受けるかたちで、同じトスカーナのタンナーたちが同様のスクラッチ加工を施した革を展開するようになりました。イル・ポンテ社のマヤと、ヴィルジリオ社(Virgilio Conceria Artigiana)のマルゴーがその代表です。
マヤショルダーとプエブロの違いは?
結論から言うと、品質において大きな違いはありません。どちらも同じトスカーナ産の植物タンニンなめし革にスクラッチ加工を施すというコンセプトを共有しているためです。
手にしたアイテムによっては、プエブロの方が表面がザラザラしているように感じることがあるかもしれません。ただ、それは革の種類の差というよりも個体差と考える方が正確です。同じマヤショルダーであっても、入荷したタイミングや色によって一つひとつ微妙に異なります。
個体差以外に差が出るとすれば、財布メーカーがその革をどのくらいの厚さで使うかによるところも大きいです。革は薄く漉くほどやわらかくなり、厚みがあるほど床面(革の裏側の繊維面)の繊維は荒くなります。
つまり、マヤショルダーとプエブロの違いは革そのものの優劣ではなく、個体差や財布メーカーの製造上の違いによるものといえます。
以前はマヤもプエブロという名称だった
実はマヤショルダー、以前は「プエブロ」という名前で流通していました。イル・ポンテ社が2022年2月に正式に「マヤ」へと名称変更したもので、マヤベリーも同様に、以前は「プエブロベリー」と呼ばれていました。
なぜ同じ「プエブロ」という名称で販売できていたのかというと、イタリア植物タンニンなめし革協会には「技術や情報をシェアする」というポリシーがあり、加盟タンナー同士が同じ加工技術を使って革を作ること自体は認められているためです。そのためイル・ポンテ社も、バダラッシィ・カルロ社と同様のスクラッチ加工を施した革を「プエブロ」という名前で販売していました。
名称が変わった背景には、バダラッシィ・カルロ社のプエブロとの混同問題があったと考えられます。消費者や作り手の間で「どちらのプエブロか」という混乱が生じていたのは確かで、名称変更はその整理という側面があったと思われます。
名称変更後も、皮革材料店や財布屋(特にフリマサイトでの出品者)の中には旧名称をそのまま残していたり、「旧名称:プエブロ」と併記しているところがあるため、現在でも情報が入り混じっている状況です。革を購入する際は、タンナー名を確認するのが確実です。
ショルダーとベリーの違い
マヤとプエブロの品質に大きな差はないとお伝えしましたが、実はそれよりも気にしてほしいことがあります。ショルダーとベリー、どちらの部位を使っているかという点です。
プエブロはショルダーのみの販売で、ベリーは販売されていません。一方、マヤにはショルダーとベリーの両方があります。同じスクラッチ加工が施されていても、部位によって品質に差があります。
ベリーは腹部の革のため繊維が荒く、裏地なしの革だけで仕立てた財布だと、床面(革の裏側)の繊維の荒さがそのまま出てしまいます。コバ(革の断面)も繊維が粗いぶん整えづらく、処理してもほぐれてきやすいという問題があります。裏地を貼れば床面の荒さは隠せますが、革だけで仕立てる場合は銀面(表面)だけでなく床面の状態も仕上がりに直結するということです。ベリーは価格が抑えられる点では魅力的ですが、こういった特性を知った上で使い分けることが大切です。
実際に購入して感じたこと
僕は、2021年ごろ、革材料店「革のミヤツグ」でマヤベリーの半裁を2枚購入したことがあります。色はライトキャメルとダークグリーンを1枚ずつ。素材の説明欄には「ヨーロッパ原皮特有の詰まった繊維で部位を感じさせません」と記載があり、ベリーであっても他の部位と差がないという意味だと解釈しました。
実際のところ、ダークグリーンはショルダーと比較しても遜色ないほど繊維の詰まりがよく、床面もきれいでした。一方、ライトキャメルは見るからに繊維の荒さが目立ち、革を折り曲げると床面が浮いてくるような感じで、コバも爪で押すと開いてくるような状態でした。
同じ「マヤベリー」でも、これだけ個体差があります。実物を見て購入できる環境であればまだしも、ネットで購入する場合はどんなものが届くかわかりません。それ以来、僕はベリーの革を買わなくなりました。
▼マヤショルダーの財布を製作・販売しています
マヤショルダー|後編
豊富なカラーバリエーション

革のミヤツグより
前編ではマヤショルダーの素材としての特性を中心にお伝えしました。後編では、実際に使う上で気になるカラー、経年変化、デメリットについて掘り下げていきます。
マヤショルダーのカラーバリエーションは非常に豊富で、ナチュラル・キャメル・イエロー・オレンジ・レッド・ピンク・ブラウン・ダークブラウン・ブラック・ブルー・ネイビー・ターコイズブルー・ダークグリーンなどが展開されています。革の販売元や財布ブランドによっては、レッドをROSSO、ブラックをNEROといったようにイタリア語でカラー名を表記しているところもあります。
これだけ鮮やかな色展開があるのは、イタリア製の植物タンニンなめし革ならではです。日本製のタンニンなめし革、たとえば栃木レザーや姫路レザーといった定番素材は、ナチュラル・ブラウン・ブラック・ネイビーといった落ち着いた色が中心で、素材本来の風合いや堅牢さを重視した展開になっています。それはそれで日本の革作りの美学ですが、鮮やかな色でエイジングまで楽しめる革というのはなかなかありません。
その背景には、イタリアの名門タンナーならではの鮮やかな染色へのこだわりがあります。革の表面だけでなく断面まで色が染み込んでいるため、エイジングで表面が変化しても色が薄くなったり剥げたりしにくい。だからこそ、レッドやターコイズブルーといった鮮やかな色でも成立するわけです。さらに、新品のときのビビッドな色が使い込むにつれて深みと渋みを帯びた色へと落ち着いていく、その変化のプロセス自体がデザインの一部として計算されていると考えられます。
ROSSOやNEROといったイタリア語のカラー名を使うのも、単なるおしゃれではなく、革の産地や製法へのこだわりの延長として自然なことではないでしょうか。
魅力的な経年変化
カラーバリエーションの豊富さに続いて、マヤショルダーのもうひとつの大きな魅力が経年変化です。他の革と比べてエイジングのスピードが早く、革内部にオイルが豊富に含まれているため、使い始めてから比較的短い期間で変化が現れてきます。使わずに室内に置いておくだけでも、光の影響で色が変わり始めるほどです。
質感の変化
新品のときはスクラッチ加工による毛羽立ちでマットでザラついた手触りをしています。使い込むうちに内部のオイルが表面ににじみ出てきて毛羽立ちが徐々に寝ていき、最終的にはスムースレザーに近いしっとりとしたツヤのある質感へと変わっていきます。この変化の落差の大きさがマヤショルダーの醍醐味です。
なお、ショルダー部位には「トラ目」と呼ばれる首や肩のシワ模様が入ることがあります。裁断した箇所によっては入らないこともありますが、入っている場合はより個性的な見た目となりますが、エイジングが進むにつれてなじんでいき、全体的に表情が統一されていく楽しさもあります。
色の変化
芯通し染色なので、エイジング後も色が抜けたような印象にならず、深みと濃さが増していきます。ただしカラーによって変化の仕方はかなり異なります。ブラウン系は元の色の方向性を保ちながら濃くなっていく比較的落ち着いたエイジングですが、キャメルなど明るい色ほど変化が大きく、元の色が想像できないほどブラウン寄りに変化します。鮮やかな色を選んだ場合は、その点を踏まえた上で楽しんでほしいと思います。ブラックはツヤは出ますが、色自体は変わりません。
デメリットは?
エイジングの魅力をお伝えしてきましたが、裏を返せばそれがデメリットにもなり得ます。
日光や照明に当たり続けると色が抜けて黄みがかってくることがあり、特に鮮やかな色のものは変色が顕著です。バッグのように日光に晒されやすい使い方だと、意図しない色変化が起きやすい点は頭に入れておく必要があります。ただ、エイジングを楽しむ前提で使う人にとってはある程度織り込み済みの話で、致命的なデメリットとまでは言いにくいと思います。
それよりも気になるのが、エイジング初期の扱いです。経年変化が進むにつれて傷や汚れ、シミなどはなじんでいきますが、裏を返せばある程度エイジングが進むまでは汚れや水染みが目立ちやすいということです。初期の状態で水などに濡れた際、その部分を布などで擦ってしまうと、そこだけ毛羽立ちが寝て艶が出てしまいます。それもやがてなじんでいくのですが、そこに至るまでの過渡期をどう受け止めるかが人によって大きく分かれるところです。
結局のところ、この革が合う人と合わない人をはっきり分けるのは「経年変化を楽しめるかどうか」という点に尽きると思います。そうしたことを気にしない人にとってはあまりデメリットにはならず、反対に気になる人にとっては大きなデメリットになり得ます。新品の状態を長く保ちたい、いつでもきれいな見た目でいたいという人には根本的に向いていない革で、そういった用途にはコーティング系の顔料仕上げの革の方が合っていると思います。
マヤショルダーの財布をご紹介
ここからは、当工房「RYOTA MIYAGI」で製作・販売しているマヤショルダーを使った財布をご紹介します。
「クロスフラップミニウォレット」は、キャッシュレス時代ならこれで十分というコンセプトで作ったミニ財布です。2つのフラップが交差するデザインで、片側だけ開ける、両側を開けるなど、シーンに合わせた使い方を選べる構造になっています。
収納はカード6枚・お札10枚・コイン10枚が目安です。使用頻度の高いカードはフロント部分のポケットに、カード・お札・コインは内部にまとめて収納できます。コインポケットにはマチをつけ、見やすさと取り出しやすさにもこだわりました。サイズは縦約8cm×横約10.5cm×厚さ約2cmで、パンツのポケットにも収まるコンパクトさです。縫製はすべて手縫いで仕立てています。
素材のマヤショルダーは、ここまでご紹介してきた通り、マットな風合いから使い込むほどに艶やかなスムース調へと変化していく革です。財布という毎日手に触れるアイテムだからこそ、そのエイジングをより身近に感じられます。
カラーはキャメル・ブラウン・ダークグリーン・ターコイズブルーの4色展開。ダークグリーン×キャメルのバイカラーモデル、外装をターコイズブルーとブラウン・内装(コインポケット)をオレンジとネイビーで構成した4色使いモデルもあります。
コインケースなども|マヤショルダーの財布
他にもマヤショルダーを使ったアイテムをいくつか製作・販売しています。
「札入れ」はお札だけを入れるための薄型長財布です。小銭入れもカードポケットもないシンプルな作りですが、キャッシュレス時代にも意外と需要があります。キャメル・ブラウン・ターコイズブルー・ダークグリーンなどのカラー展開です。
「スクエアコインケース」は縫い目のない個性的なコインケースで、4方向からボタンで開閉できます。収納力と使いやすさ、薄さ、小ささのバランスに優れた一品で、キャメル・ブラウン・ターコイズブルー・ダークグリーンなどのカラー展開です。
「二つ折りミニ財布」はお札とカードだけを入れるための小さく薄い二つ折り財布、「ボックス型コインケース」も同様に、ターコイズブルー・ブラウン・オレンジ・ネイビーの4色のマヤショルダーを組み合わせた、使いやすさと個性的なカラーリングを両立した仕上がりです。
この他にも、岡山デニムと組み合わせたボックス型コインケース、三角コインケース、L字ファスナー財布、カードケースなども販売しています。縫製を施しているものはすべて手縫いで仕立てています。
いずれもご注文をいただいてから製作する受注製作で、送料無料でお届けします。決済はクレジットカードのほか、PayPayやコンビニ支払いなども対応しており、会員登録不要でご注文いただけます。ご注文後の配送状況などはすべてメールでお知らせします。また、決済画面にてクーポンコード「005」をご入力いただくと、5%割引でご購入いただけます。
まとめ|マヤショルダー
最後に、このブログのポイントをまとめておきます。
– マヤショルダーはイル・ポンテ社が作る植物タンニンなめしの牛革で、スクラッチ加工によるマットな風合いと早いエイジングが特徴です。
– イタリア植物タンニンなめし革協会は1994年にトスカーナで設立された非営利団体で、イル・ポンテ社はその正式メンバーです。
– マヤショルダーとプエブロは品質に大きな差はなく、違いが出るとすれば個体差や財布メーカーの製造上の違いによるものです。
– マヤはもともと「プエブロ」という名称で流通しており、2022年2月に正式に名称変更されています。
– マヤとプエブロの違いよりも、ショルダーとベリーの部位の違いを意識する方が大切です。
– マヤショルダーはナチュラルからターコイズブルーまで豊富なカラー展開があり、エイジングにより色の深みが増していきます。
– エイジングのスピードが早く、マットな質感からしっとりとしたツヤのある質感へと大きく変化するのが醍醐味です。
– デメリットはエイジング初期の汚れや水染みの目立ちやすさで、経年変化を楽しめるかどうかがこの革との相性を分けます。
– 当工房ではマヤショルダーを使ったクロスフラップミニウォレットをはじめ、さまざまな財布を受注製作しています。
– 札入れ、スクエアコインケース、二つ折りミニ財布など、マヤショルダーを使ったアイテムはすべて受注製作・送料無料でお届けしています。
マヤショルダーは、使い始めの表情と使い込んだ後の表情がまるで別物のように変わる、エイジングの醍醐味を存分に楽しめる革です。
▼マヤショルダーの財布を製作・販売しています

氏名:宮城良太(みやぎ りょうた)
生年月日:1995年10月21日
略歴:文化服装学院(工芸課程)→デザイナー(スポーツアパレル)→個人業(財布の製造・ブログ)
好きな言葉:要は慣れ・ひとそれぞれ





